樫の木は残るか・・福瀬神社のハナガガシ(日向市)
 ハナガガシは、分布域が愛媛県、高知県、長崎県、熊本県、そして宮崎県に限られる希少な植物です。 環境省のレッドデータブックでは、 近い将来における野生での絶滅の危険性が高いものとして、絶滅危惧TB類に分類されています。 「福瀬神社のハナガガシ」は、全国でも数少ないハナガガシの巨樹で、 この種として日本一であり、世界一ということになります。

 「福瀬神社のハナガガシ」は、伐採するか、保存するかで二度にわたって揺れ動きました。 最初の論議は十数年前のことです。 このときも、 町文化財の指定を解除し、まさに切り倒される寸前で救われることになりました。 そのときの顛末はおおむね次のとおりです。
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 平岡忠夫画伯(東京都・巨樹の会主宰)は、日向市美々津から椎葉村に至る耳川流域を「九州の巨樹ベルト地帯」と名付け、美々津にある「立磐神社のクスノキ」から描き始め、 次に福瀬神社を訪れました。 師は、県林業技術センターが主催する講演の講師として招かれていたことから、受講者はハナガガシの絵と話を見聞することになりました。  折しもこの巨樹は、強風などで倒れることになれば、境内に隣接する人家に危害を及ぼすとして、町天然記念物の指定を解除され、切り倒される運命にあったのです。  当時の東郷町長木村誠氏が聴講者の一人であったのは幸運でした。 町は、三方からワイヤロープで引っ張ることで倒伏防止を図ることにし、 そして日本一の巨樹は命を長らえることになったのです。 ・・・「みやざき巨樹の道(県北の巻)」から・・・
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 その後この巨樹からは、2004年4月25日に当県西都市で開催された第55回全国植樹祭で、 天皇陛下がお手蒔きされたドングリが採取されたことでも知られることになりました。 ところが、2003年10月1日正午過ぎ、幹周り約4mの大枝が地響きを立てて落下したのです。

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  福瀬神社のハナガガシは、種としては世界一の大きさ(幹周)を誇ります。
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  •  樹種:ブナ科ハナガガシ(葉長樫)
  •  所在:宮崎県東臼杵郡東郷町
  •  指定:町天然記念物
  •  幹周:545cm 樹高:33m
 議論されたのは、伐採か、保存かの二者択一です。 地元では、安心して眠ることもできないとして、根元から伐採することを望みました。 町では、 人家にさしかかる大枝を切り落とし、主幹が折れても人家に危害が及ばないように、再び主幹上部をワイヤロープで引っ張る(今度はワイヤが食い込まないように)ことで、 今後の保全を提案しました。

 確かに、一部には「伐り倒しても、萌芽によって種は残される」とか、「巨樹も永遠ではない」などの意見も聞きますが、数百年を生きてきた巨樹を守れないとか、 少なくとも巨樹より後に生を受けた私たちが切り倒すようでは、私たちは今後自然から守ってもらう権利を失ってしまうような気がしてなりません。
 私たちは、町役場の皆さんと一緒に、保存に向けて最善の方法を検討しましたが、そのためには多くの費用が必要なことも確かです。  全国の巨樹愛好者の皆さんに募金をお願いすることも視野に入れながら、何とかこの巨樹が救われる道を模索しました。

〔その後の動き〕
 町は、ハナガガシの保全に要する経費を予算化するべく、町議会に議案を提出しました。 同時に、県に対しても補助金交付を要請したり、将来の保全に向けて募金活動を開始するなど、積極的に保存運動を展開しました。 その結果2005年7月11日現在、どうやら町の計画は軌道に乗り、保存のための大掛かりな枝下ろしやワイヤーロープのかけ直しが実施されました。
 以下に、この巨樹の保存に向けた取組と、その後の経過を報告します。

2005年6月25日の状況
ハナガガシbQ
2004年9月19日の状況
保存調査の状況
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2005年6月25日の状況
 幹には、過度の乾燥を防ぐための包帯が巻いてあります。
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 枝先には、若葉が繁り始めました。嬉しい気もしますが、駆体の割に葉が少ないのはやはり気になるところです。
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ハナガガシbQ
 保存工事のお陰で、樹林にあったハナガガシが姿を現しました。
 かつて、この樹にアンカーがとってありました。
〔データ〕
幹周:505cm 樹高:33m

 この奥に幹周420cmのハナガガシもあります。
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 ナンバー2、その姿は左の写真のとおり雄壮です。
 でも、ご覧ください、ワイヤ・ロープが巻き付けられていた、その傷跡の痛々しいこと。もう数年もすれば、幹に食い込んで、大風に耐えられなくなっていたことでしょう。
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標準の画像
2004年9月19日の状況
 左の写真は、人家側(南)から見た社叢です。中央にハナガガシがそびえています。クレーン車からの作業のため、周囲の樹木も枝が落とされ、こんもりしていたかつての樹林の面影は薄れてしまいました。
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 左は、随分と明るくなった樹林(ではなくなった?)の内側からハナガガシを見ています(左手が人家側)。作業用足場が組んでありますが、これでも10メートルはあります。
 ハナガガシの梢です。これで大風を受けても倒されることはありません。でも、この後どれほどの葉を繁らせてくれるでしょう。何とか生き延びて欲しいものです。
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 これらの写真で前述のワイヤロープがはっきり分かります。「ロープが幹に食い込み、むしろそこで折れやすくなるから、方法を変えるように」と言い続けて約10年、今回やっと取り外され、もっと樹にやさしい方法で引っ張ることになりました。それにしても、こんな形で成就することになるとは。余談ですが、このロープのアンカー(?)は、何と!幹周り505cmのハナガガシの幹にとってあるのです。
 私の撮影を見ていた男性の言葉が印象的でした。「こんげなこっすりゃ、みな倒れっしまうが。馬鹿なこっしたもんじゃ。」
保存調査の状況
 右の写真で、落下した枝の跡に人が上っているのが見えます。  幹の大きさがいかに大きいか分かることと思います。 左に出ている枝先は隣家の真上近くまで伸びています。
※写真は相互造林株式会社(日向市)提供
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 調査の結果内部は腐朽が進行して、幹は空洞状態にあることが分かりました。 落ちた枝の根元には倒伏防止のためくくりつけられたワイヤが見えます。
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 ワイヤの設置後10年以上経過していますので、相当食い込んでいるものと考えられます。
 幹の内部は腐朽が進み、木質繊維が詰まった状態になっていました。 高さは地上20mほどありますが、この部位の一部には不定根も見られます。
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